Adversity makes a man wise(グラアス)
日差しはまだ暖かいが、風は冷たい。拠点の周りを散歩しながら季節の変化を感じていると、木に寄りかかりページをめくるグランツさんを見つける。
「グランツさん、こんにちは。何の本を読んでるんですか?」
「おう、嬢ちゃんか。こいつは詩集だが…読書の秋だからって何度も読んでたらこの本も飽きちまった! なーんてな、わははっ」
「そんなに面白いんですか? 私も読んでみたいです」
「あー、若者にはちっと退屈かもしれんなあ…嬢ちゃんには恋愛小説とかの方が良いんじゃねえか?」
「いえ…グランツさんがよく読む本を読みたいんです」
「俺が? 俺は歴史書とか哲学書を読んでることが多いが…嬢ちゃんには面白くないと思うぞ?」
「大丈夫です。私、少しでもグランツさんのことが知りたくて…難しい本はよく分からないかもしれませんけど、頑張りますから」
「……可愛いなあ。あんまオジサンを調子に乗らせるなよ? 知りたいならいくらでも教えてやるよ…俺の好きな本も、好きな言葉も、嬢ちゃんになら全部、な……」
私の背中に大きな手が回り、温かい胸の中に包み込まれる。慈しむような眼差しに微笑みを返すと、唇に優しいキスが降ってきた。
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Life is sweet(ファルアス)
「ファルさん、こんな所で寝ると風邪を引きますよ」
両手で包み込んだ彼の白い頬は、ひんやりと冷たくなっている。
「ん…あったかい」
少し目を開いたファルさんに手を引かれ、そのまま腕の中に閉じ込められた。
「きゃっ」
「お前の身体…ぽかぽかする…気持ち良い……」
「顔だけじゃなくて身体も冷たくなってますね…もう寒くなってきましたし、お部屋に行きませんか? クルムさんからスイートポテトを頂いたので一緒に食べましょう」
「スイート、ポテト…?」
「サツマイモで出来た甘いお菓子です。とっても美味しいですよ」
「ん…食べる。だけどその前に…おはようのキス、して?」
ファルさんは私を見つめ可愛くねだる。恥ずかしくて赤くなりながらそっと触れるだけのキスをすると、彼は満足そうに微笑んだ。
「ふふっ…嬉しい…お前が起こしてくれれば、すぐにキスできる…寝る時も、起きる時もずっと一緒にいろ……」
そう言って彼は私を抱き締めたまま再び目を閉じた。
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Every cat has its day(キンアス)
「キンカローさんは秋といえば何だと思いますか?」
「あァ? 興味ねえ」
「色々あるんですよ。読書の秋とか睡眠の秋とか食欲の秋とか…あとは…その……」
「それだけか?」
「えーっと…サツマイモの秋…とか……」
「ハハッ、そいつはテメェが食いたいだけだろ。食い意地の張ったテメェらしいがな」
「ううっ…そうですけど……」
「…そういや『恋人たちの秋』なんて絵があったな」
「何だか素敵ですね。肌寒くなるから、くっつきやすいのかも」
「ハッ、普通は別れの秋だろうが…センスねえ。絵自体も盗む価値の無いモンだったしな…なんだァ? 俺の肌をじーっと見て」
「キンカローさんは特に暖かそうだなって」
「チッ、このキンカロー様を毛布扱いすんのはテメェくらいだぜ…ほらよ」
「きゃっ」
キンカローさんは隣に座っていた私を軽々と持ち上げ自分の脚の間にすっぽりと入れる。背中から腕を回されると私の身体はキンカローさんの熱でじんわりと温まっていった。
「これで満足か?」
「これは…フワフワであったかくて…キンカローさんの匂いがして凄く良いです!」
私が興奮気味に振り返ると、すぐそばに迫っていた彼の口と触れ合う。
「そうだな。テメェに色々するのに都合が良さそうだぜ」
恋人はニヤリと悪い顔で笑った。